なかなか抜け出せない薬物乱用性頭痛            山川 淳一

習慣を治すのって難しいですね。やってはいけないとわかっているのに…。
今回紹介致しますのは、頭痛が続く状態でダメだとわかっているのに鎮痛剤を連用してしまった医療関係者の症例です。

薬物乱用頭痛は国際頭痛分類第2版に二次性頭痛に分類されています。実際は一次性頭痛、特に片頭痛と合併して現れる重要な頭痛タイプです。
すでに近医にて診断・加療されているが薬剤乱用が止められない状態に対して桃核承気湯が有効であった症例を紹介します。

症例は30歳の女性で、既往歴として、片頭痛26歳 高血圧症27歳があります。職業は介護職(医療関係者)です。主訴は頭痛・倦怠感です。
現病歴として、平成X年5月より近医にて加療を受けていたが乾性咳が止まらず、常に頭痛・倦怠感が続いていると平成X年7月来院されました。精査にて異常所見は見当たらず、東洋医学的診断より瘀血と診断しツムラ桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)(TJ-61)を処方したところ調子良いと平成X+1年4月まで内服を継続していました。
その後、来院されず平成X+2年8月に頭痛がひどいと再来されています。この時点で、平成X-3年に薬物乱用頭痛診断され、近医にて加療されているが薬剤乱用が止められない事を打ち明けられました。鎮痛剤を中止すると頭痛は改善するが不安感が強くなるとのことです。いろいろな理由を付けては、多数の病医院を受診し、鎮痛剤の処方を受けて内服することを繰り返していたとのことです。自分自身、薬物依存は理解され、精神科への紹介も受けていましたが行っていませんでした。

身体所見は身長151cm体重59kgで、血圧158/84、血算・生化学検査は特記ありません。東洋医学的所見は、顔色はやや赤暗く、下顎に吹き出物。赤ら顔。肩こり・腰痛あり。便秘1行/4日。月経前に頭痛とイライラが増強。月経血に凝結塊あり。舌診はやや乾燥し薄黄苔。脈診は沈実。腹診は腹力実・軽い右胸脇苦満・著明な左小腹急結あり。やはり桃核承気湯がよいと考え処方しました。
臨床経過ですが、1カ月後 には肩こり・腰痛はあるがVAS 2/10。便秘1行/1日となり、月経血に凝結塊消失。鎮痛剤使用回数は3回/月に減少した。3カ月後 には、自覚症状ほぼ消失。頭痛1回/月でリザトリプタン安息香酸塩使用にて消失。 鎮痛剤使用なしと安定したため近医に紹介としました。

薬物乱用頭痛( MOH:medication-overuse headache )は、薬物乱用による頭痛はこれまで反跳性頭痛( rebound headaches )、薬物誘発頭痛( drug-induced headache )、薬物誤用頭痛( medication-misuse headache )などと呼ばれています。多くの頭痛センターの統計では5~10%の頻度で、一般に片頭痛の0.5~1%、緊張型頭痛の0.3~0.5%と推定されています。性格的背景(personality traits)が重要で、不安、強迫的、うつ的な状態がみられます。患者の頭痛保有期間は平均18年に及ぶとされています。
今回の症例はすでに近医にて診断され、鎮痛剤が誘因になっていることを充分に理解していました。しかし、仕事が続き、対人関係がうまくいかなくなると内服してしまう悪循環に入っています。鎮痛剤は容易に手に入る環境で、内服したのちに強い自己嫌悪に陥っていた。抗不安薬も使用されましたが同様に薬物依存が出るのではないかと内服はしておりません。このことも自己嫌悪の原因の1つになっています。知人の看護師が、同様な悩み(行動を起こしてしまい、後に自己嫌悪に陥る)に漢方薬を使用し改善したのを聞き、以前当科を受診していた時、調子良かったことを思い出すきっかけになっています。

今回使用した桃核承気湯『傷寒論』は神経症状、便秘などを目標に用いられます。下腹部がかたく脹って痛む・圧痛・抵抗・便秘・排尿には異常がないなどの症候で、熱は夜間に高くなり、甚だしい場合には意識障害や狂躁状態を呈するとされています。ストレス『肝気欝滞』から瘀血状態の悪化をきたし、精神異常(強迫概念)や異常行動(薬剤乱用)が生じたものと考えます。桃核承気湯により、慢性の瘀血が改善され、精神的な不安が減少したことにより薬剤乱用からの離脱が容易になったのではないかとおもいます。

(南長野医療センター篠ノ井総合病院 漢方診療科)