脳梗塞に対する超急性期治療とその適応の拡大

長野医療センター篠ノ井総合病院 脳神経外科
村田 貴弘

脳卒中(脳血管障害)で亡くなる日本人は、年間およそ11万8千人。
がん、心臓疾患、肺炎に次いで死因の第4位を占めています。

脳卒中は1970年代までは死因の第1位でしたが、高血圧治療の普及により高血圧性脳出血が減少しました。

その結果、近年は脳梗塞が脳血管障害患者の約4分の3を占めるようになっています。脳梗塞における治療の鍵は、超急性期における正確な診断と治療開始にあります。

脳梗塞の超急性期治療として高い有効性が証明されているのが、組織プラスミノーゲン活性化因子(recombinant tissue plasminogen activator;rt-PA)による血栓溶解療法です。

1995年に発症3時間以内の超急性期脳梗塞に対するrt-PA静注療法が、3か月後の社会生活が自立した患者を有意に増加させることが報告されました。

この結果により世界中で脳梗塞に対するrt-PAの使用が認可され、日本でも2005年10月から適応となりました。

急性期脳梗塞の治療は“再発、症状進行の予防”と“早期リハビリテーション”に加えて、“超急性期の閉塞血管の再開通”による積極的な症状改善を目指した治療へと変化しました。

しかしながら実際にその治療が適用される症例は、急性期脳梗塞症例の1.8~5.2%とごく少数に過ぎず、適応が限られる最も大きな要因は、3時間以内の治療開始という時間的制約でした。

2008年にrt-PA静注療法が発症3-4.5時間の脳梗塞にも有効であることが報告され、日本でも2012年に発症4.5時間までの脳梗塞に適応が拡大されました。

rt-PA静注療法は標準的な治療として広まったものの、本治療は主幹脳動脈閉塞症(多くが心原性脳塞栓症)に対しては再開通率が低いことや、発症4.5時間以内と延長しましたがそれでも適応時間が短いことが問題で、やはりその適応患者も依然として限られていました。

そこでrt-PA静注療法によって症状の改善が認められない場合や治療の適応外の主幹脳動脈閉塞症例に対して、カテーテルを用いた脳血管内治療が行われるようになり、新しいデバイスによる血栓回収療法が注目されるようになってきました。

欧米では2004年頃から臨床研究が始まった血栓除去デバイスであるMerci Retrieval System (Stryker社)は、2010年10月に我が国でも初めて認可されました。
さらに2011年10月にPenumbra system(Penumbra社、国内販売はメディコス・ヒラタ社)が、そして2014年7月にはステント型血栓回収デバイスであるSolitaire FR (Covidien社、現在はMedtronic社)とTrevo ProVue (Stryker社)が認可されました。

これらのデバイスは、rt-PA静注療法にて効果が得られなかった場合、あるいはrt-PAの禁忌例において、発症8時間以内であれば適応でした。

また2014年から2015年にかけて、主にステント型血栓回収デバイスを用いた国際共同試験の結果がいくつか発表されました。

主幹動脈閉塞による急性期脳梗塞患者に対して、従来のrt-PA静注療法だけを行う群と、それに追加して血栓回収療法を行う群を無作為に分けてその治療成績を比較するランダム化試験が行われ、結果はすべて血栓回収療法を行った方が患者さんの回復効果は良好で、自立した生活が送れるようになる患者さんの割合が有意に多いというものでした。

これらを受けて2017年に追補された脳卒中治療ガイドライン2015では、rt-PA静注療法に並び血栓回収術が脳梗塞の超急性期治療においてグレードA、「行うよう強く勧められる」つまり「すべき」治療となっています。

全国で血栓回収術が広く行われるようになり、2016年は約7700件、2017年には1万件超、2018年は12000件以上の治療が行われ毎年増加しています。

更に米国で行われた最終健常確認時刻から6-24時間以内の主幹脳動脈閉塞症例を対象にした試験の結果、救済領域が大きければ血管内治療により非常に良好な転帰が得られることが発表されました。

本邦でも2018年3月の「経皮経管的脳血栓回収器具適正使用指針第3版」において、症例毎に慎重に適応を検討する必要がありますが、最終健常確認時刻から16時間以内の主幹脳動脈閉塞症例に対する血栓回収術はグレードA(行うよう強く勧められる)、24時間以内がグレードB(行うよう勧められる)の治療となりました。

また最近2019年3月に改定されたrt-PA療法適正使用指針第3版では、発症時間不明の場合もMRI画像所見から4.5時間以内と推測されれば、投与を考慮しても良い(グレードC)ことになりました。

以上のように、脳梗塞の超急性期治療はrt-PA静注療法に加えて主幹脳動脈閉塞症(多くが心原性脳塞栓症)に対してはカテーテルによる血栓回収術が加わり、その適応が拡大してきています。

しかし血栓回収術は日本脳神経血管内治療学会専門医を有する病院でしか受けられません。篠ノ井総合病院には専門医がおり、可能な限りいつでも治療ができる態勢を整えています。

近年めざましい進歩を続けている脳梗塞の超急性期治療ですが、一方で、より早く治療を開始するほど、良好な機能予後を得られる可能性が高まることが報告されています。

だからこそ、これらの治療の恩恵を一人でも多くの脳梗塞患者が受けるためには、市民の皆さんへの脳卒中の啓発や救急隊と病院との連携、さらには医療機関同士の連携を進め、一分でも早く専門医療機関を受診できる医療体制を構築することが極めて重要です。

医師会の先生方におかれましては、患者さんへの啓発や当院へのスムーズな紹介など、今後ともよろしくお願いいたします。
市民の皆さんおかれましては、次のような症状が脳梗塞のサインです。

  • 片方の手足に力が入らない、しびれが起こる
  • ろれつが回らない
  • 顔にゆがみが出る
  • 言葉がとっさに出てこない
  • 他人の言うことが分からない
  • ものが見えにくい、見える範囲が狭くなる

このような症状がありましたら、直ちにかかりつけの先生または当院を受診して下さい。
よろしくお願いいたします。

右内頚動脈閉塞症例、ステント型血栓回収デバイスにて完全再開通